神経回路


いつの頃からかピアノを弾いている時に、右手のこわばりを感じるようになった。
早いパッセージを弾こうとすると指に力が入り、思うように動いてくれないもどかしさを感じるようになった。それに気がついたのは私が20代の頃の話である。練習不足なのかとその時は思っていた。しかし、ある時レッスンの初めに弾くスケールの基礎レッスンで、明らかに何かがおかしいと気づいたのである。本来右手は左手よりよく動いていた。右手の方が得意なはずなのに、全然思うように動いてくれない!

それでショパンやリストなどのクラシックからは少しずつ遠ざかってしまった。小さな子供がよく弾くモーツァルトの曲でさえも正確なパッセージで弾けなくなってしまった。

しかしその後、インターネットが普及して、いろいろなことがネットで調べられるようになると、私のその症状がフォーカルジストニアだと判明した。

フォーカルジストニアとは音楽家に多く見られる病気のひとつで痛みや痺れは起こらないが、楽器(ピアノ)を演奏しようとすると意図せず手指に力が入って固まってしまったり、意図しない指の動きが起こってしまったりと、手や指を思い通りに動かせなくなる神経疾患のことである。歌手の場合は喉やその周辺に、管楽器奏者では口に、ドラマーでは足にこわばりが起こるなど、手指以外にもよく使う部位に起こる傾向があるそうだ。しかし、このジストニアは特定の作業時以外には全く症状が現れないことが多く、私の場合はピアノを弾く以外には日常生活には全く問題が生じていなかった。

この疾患の原因は過剰に繰り返し同一の運動を行うことによって脳の一部に変化が起こってしまうことによるものだという。手や指などの筋肉に指令を送る部位が情報をうまく処理できず、動かしたい部分の誤作動を起こすようだ。つまりは神経伝達機能の問題である。

ところが最近はパソコンを打っている時にも時々ピアノを弾くときに起こるあの嫌な感覚が右手に蘇ってくる時がある。
昨年、原因は不明だが痛みで親指を曲げることができなくなった。病院には行かず、しばらく放置して様子を見ることにした。かなり時間はかかったが、少しずつ痛みから解放された。けれども以前のように鉛筆が持てなくなった。字を書くのに少しぎこちなさを感じコントロールがうまくできなくなった。これもジストニアの一種なのであろうか?

フォーカルジストニアを完治させるための治療法は未だに確立されていない。

私の神経回路は一体どうなっているのかな?
もちろん加齢によるものはあるのかもしれない。それ自体が生命を脅かす病気ではないので、あまり考えすぎないようにはしているけれども、だんだんと日常生活の様々な場面で問題が増えていくようで、なんだか憂鬱である。






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